和傘は、時代ごとに表情を変えながら人々の生活に寄り添ってきた、日本ならではの道具です。その佇まいは、開くたびに空間の表情を変え、静かに存在感を放ちます。本企画では、岐阜、京都、岡山で和傘と向き合う3人の職人に注目し、彼らが紡ぐ繊細な手仕事の美学と、伝統を現代に息づかせる挑戦の軌跡をたどります。

東京・大手町ビルヂング 吹き抜け部 和ルミネーション フローティング和傘は香川県の高松絵日傘を中心として絹かさなどを吊ってます。
3人の職人が示す伝統工芸の明日
和傘の歴史を紐解くと、その原点は実用品というよりも、むしろ“祈り”に近い。平安時代には魔除けや厄除けの象徴として用いられ、人々は日々の営みのなかで、目に見えないものへの畏れと願いをこの道具に託してきた。江戸時代に入ると、雨具や日傘として庶民の暮らしに浸透し、開閉が可能な構造も生み出された。
時代ごとに役割を変えながら受け継がれてきた和傘。その変遷は、日本人が自然や季節、そして「もの」とどう向き合ってきたかを映し出す鏡でもある。では、今を生きる職人たちは、どのように伝統を受け継ぎ、未来へ手渡そうとしているのだろうか。今回は、3人の和傘職人にインタビューを行った。

岐阜市にある岐阜和傘専門店、和傘CASAで並べられた岐阜和傘の数々。ディスプレイされているのは全て柿渋染めの美濃和紙を使用した和傘。全て仐日和オリジナルのデザインで左から三日月、中央と左端は交叉(こうさ)。どのデザインも年齢、性別問わずに好評。
岐阜で育ち、幼い頃から和傘に親しんできた河合幹子は、「和傘のある日常」をもう一度取り戻せるはずだと語る。単に伝統を守るためではなく、人々の暮らしに寄り添う“生きた道具”としての和傘を再び息づかせたい──そんな静かな情熱を燃やしている。河合の和傘づくりは、過去に倣うだけでなく、現代の生活者の感覚へと開いていく試みだ。形や色彩の捉え方は、生活雑貨やファッションに触れてきた世代ならではの視点が息づき、伝統技法の上に現代のリズムが重なる。
一方、岡山を拠点とする小林旅人は、ギター製作や木工など多彩なものづくりの経験を経て和傘の世界に飛び込んだ。途絶えかけた技法の調査、舞踊傘製作の特殊技法である“間殺し”の再現、地域に残された大傘の復元。失われかけた技法を調査し、復刻し、記録することに心血を注ぐその姿勢は、単なる復古主義ではない。「将来職人を目指す人が諦めなくていい環境を整えることが、今の職人の役割」と小林は語る。伝統を守るためにこそ、現代の知性と柔軟な検証が必要であることを、小林の和傘は教えてくれる。

Creative Direction:Yoji Nobuto (SHISEIDO CREATIVE) Art Direction:Yukihiro Kaneuchi (SHISEIDO CREATIVE) Design:Aki Ito, Tomoki Nabeta (HAKUTEN CREATIVE) Technical:Yuto mitani(HAKUTEN CREATIVE)Tomohiro akagawa(A-KAK) Produced by:Seishiro Tate (HAKUTEN CREATIVE) Construction:Kohei Kumazaki, Kaiki Shingu, (HAKUTEN CREATIVE) Photo:Masayuki hayashi 傘の部分を日吉屋が担当
京和傘の老舗「日吉屋」五代目の西堀耕太郎は、和傘の技術を照明や空間デザインへと応用し、新たな価値へと昇華させた。故郷・和歌山で異文化に触れ、海外生活で「外から日本を見る視点」を獲得したことが、ものづくりへの問いと革新への姿勢を育てたという。「伝統とは、革新が積み重なった結果として息づくもの」。その信念を胸に、和傘から照明、そして次世代の職人育成へ。西堀が歩んできた挑戦の軌跡は、和傘だけでなく、伝統工芸の未来を照らす光となっている。三者三様の在り方は異なるが、共通しているのは「伝統とは、ただ守るものではなく、動かし続けるものだ」という確かな信念だ。
和傘づくりは、決してロマンティックな世界ではない。季節によって変わる素材の癖に従う忍耐、途絶えた技法を文献から読み解く執念、需要の少ない現実と向き合いながら継承の仕組みをつくる知性。彼らの手によって生み出される和傘は、時代を越えて人々の感性を呼び覚まし、「美をまとって生きる」豊かさを取り戻させてくれる。
近年、ファッションの世界でも和傘の存在は再評価されている。和紙のニュアンスや、竹骨が生む陰影の揺らぎは、洋傘にはない独特の美しさを放つ。機能だけを理由に選ぶ道具から、装いを完成させる「意匠」としての和傘へ。今、和傘は、かつての魔除けのように、“象徴”としての力を別の形で取り戻しつつある。
伝統は、過去ではなく「未来のための記憶」だ。だからこそ、継承には、川の流れをせき止めるのではなく、澄み続けるための工夫と、新しい水を迎え入れる柔軟さが必要になる。和傘職人たちは今、その両方を引き受けながら、新しい和傘の風景をひらこうとしている。次に続くインタビューで、3人の職人の思いや挑戦を深く掘り下げていきたい。
Edit:RYOTA KOUJIRO Text:SUI TOYA
