前途洋々の未来へと続くガイディング。その導きを得るためには、現状の境地を知りそれを越えていくことが大事だ。そこで今回迎えるのは、日本を代表する俳優・大沢たかお氏。人となりを物語る表情やボディパーツ、佇まいを通し、長年の経験に裏打ちされた今という瞬間を捉える。

INTERVIEW
今回の撮影はいかがでしたか? 普段はどういったファッションがお好きですか?
どの衣装も素敵でしたし、昔からお世話になっている(フォトグラファーの)秦さんともご一緒することができて、気持ちも上がりすごく楽しかったです。普段は本当に気楽な感じで、よく運動もしますし、お仕事でも着替えることが比較的多いので、かしこまった洋服を着る機会が少なくて。ただ元々ファッションの世界にいたので、洋服を見たりすることも好きですし、お仕事としても趣味としても兼ねられるので、ファッション撮影は自分にとっても楽しい時間です。
モデルを経て俳優という仕事を長く続けるなかで、芯に置いていることを教えてください。
悔いのないよう一生懸命に、誠実に作品に取り組む、ということを続けていたら30年過ぎていた感じで。何か目標を掲げていた訳ではないのですが、いつまでも続くお仕事だとは思っていないので、いつ終わってもいい、このお仕事で最後だと思えるぐらい精一杯やってきたら、今まで続けることができた。それはずっと変わらない考え方かもしれないです。
逆に、ご自身の中で変わったと感じることはございますか?
以前は、もっと“自分が頑張らないといけない”という意識が強くて。若い頃や社会に出たての時は、誰しも頑張りすぎというぐらい頑張ってしまうことがあると思うんです。それはそれで良い経験でしたが、振り返ってみれば、周りの力のおかげで自分が神輿に乗せてもらえているんだなと。“大沢たかお”という名も確かに自分の名前ではあるけれど、お仕事上では周りの皆さんが作り上げてくださる通り名のような感覚で。現場で役を演じる時もそうです。初めの頃は自分が1から10まで全て手掛けている気持ちになっていましたが、直接的に関わらなくても、全てのチームあってこそ。だから「自分って大したことないんだ」と思ったら、逆にすごく楽しくなったんです。 周りを信じられるようになったし、信じないと良い作品ができない。それは自分の中でも変化を感じる部分でもあります。
今号のGIANNAでは「“Innovate Imagination(想像力が私を導く)”」をコアテーマとして掲げているのですが、新しいもの・ことを生み出す際に、大沢さんが意識することは何でしょうか?
究極の究極は、見てくださる方々に楽しんでほしい、びっくりしてほしい。その時間だけでも、日常のことを忘れてもらえたらいいなと思っていて。そこに自己満足はあまり考えていなくて、作品に触れたみんなが「良かった」、「いい時間を過ごせた」、「ちょっと嫌なことを忘れられた」といった想いを感じられることを、常にゴールにしています。それであればどういう作品に出たらいいのか、どういう風な役の演じ方、あり方がいいだろうかということを考えていて。極めてシンプルです。
常に対ひとのことを意識していらっしゃるのですね。
それが遠からずエンターテインメントのお仕事なので。違う考えの方もいるかもしれませんが、僕は自分が満足するということに価値を置いていなくて、人に喜んでもらえるだけですごく幸せです。
たしかに、雑誌も手に取って読んでくださる方がいてこそ意味が生まれるなと。
そうなんですよね。それが自分は意外とブレないので。雑誌の撮影も、自分が最中に快感を得るなどはあまりなくて、むしろ冷静に考えるとみんなに見られて恥ずかしいなと思うくらいですが(笑)、雑誌という形になって、見てくださる方が「わあ!この服真似してみたいな」、「パートナーにこういうのを着てもらいたいな」と感じてくれたら嬉しいなと思います。
歳を重ね、俳優として演じられる役や表現の幅にも変化を感じますか?
よく聞かれるのですが、あまりないと思っていて。意識せずとも、やっぱり20歳の頃の人生経験と、例えば30、40、50歳になって積み重ねてきた人生経験は全く違う。そうすると不思議と自分の見方や台本の読み方も変わるというか。20代の頃はこう人と接していたけど、50代の今はこうか、なんて日常生活でもいちいち意識しないのと一緒で、自然に変わっていくものだと思うんです。お芝居もそれに近くて、年齢による変化を考えたことがないし、カメラ前での自分はデビューした時と本当に変わっていないなと。逆に言うと、19歳でモデルとしてスカウトされて、始めたてでカメラを向けられた時のあの恐怖感や緊張感。「やだな、みんなに見られていて」みたいな感覚は、何十年経っても全く変わらないです。
今も感じていらっしゃるのですか?
今も感じますし、クランクインなども本当に苦手で。「その日が来ないでくれ。延期になってくれないかな」と毎日のように考えてしまうし、寝られなくなるくらいです。変われると思っていたのですが、何歳になっても変わらない。試験前の感覚と似ていて、何日も前から落ち着かないのは結構な負担で嫌じゃないですか。それを30何年も繰り返しながら、隣り合わせでやってきて。
でもそれは、真剣に向き合っているからこそですよね。
おっしゃる通りで。自分のやってきたことや、企画に対する取り組み方が正しかったか、それは蓋を開けてみないと分からない。そんな中で、観客に届く最初のカットが始まるんですよね。監督やカメラマン、他の俳優の方々みんなが、ファーストカットに合わせて組み立ててくれるので、そういう意味では責任がどんどん重くなってきているというか。昔感じていた、みんなに見られて緊張するという感覚から、チームを変な方向に導いてしまわないかという恐怖心にシフトしているのかもしれません。良い作品を作るというゴールを、よりクリアに想像できるようになったことも理由の一つです。作品公開とともに、きっとこれぐらいの観客が来てくれて、ネットではこう評価されて、レビューがこう書かれて、というようなことを無限大に考えてしまうんですよね。不要なことかもしれないですが、経験を積めば積むほど、そういう恐怖心が出てきてしまうのかもしれません。
数々の著名作品にご出演されていらっしゃいますが、“大沢さんらしさ”はどんなことで感じられますか?
自分らしさは全然分かっていないんです。キャスティングいただけることは本当にありがたいことなので、自分らしさが分からないからこそ誠実に向き合う。真面目に仕事をすること、準備を怠らず、人に負けないぐらい努力すること。それだけが自分の特技なので。周りも自分を信じてくださっているし、自分自身も周りを信頼しているから成り立っているのだと思います。同じ演技でも、切り取り方次第で別人に映るので、役を作りあげる上で自分のパートは3割ぐらい。あとはカメラマンさんや照明さん、美術さん、監督が仕上げてくださる。今はそう思えるので、ある意味気楽です。「監督、分かってますよね。カメラマンさん、僕のファンを増やしてくださいね」という感じです(笑)。
大好評を博した前作に続く、映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』が9月26日に公開となりましたが、第二章にあたる本作にはどのような心境で臨まれましたか?
ファーストステップとなる前作は、ゼロイチベースですべての予測が難しく、全く箸にも棒にもかからない可能性がある中で手探りでしたし、映像化は困難だという声も多くて。特に核のことや日米安保など、触れづらい題材を扱っていますし、いわゆる恋愛描写もほぼなければ、出演者のほとんどが男性ばかり。似たようなテーマの作品も多くはないので、何が正しくて何が間違いかも全く見えない中で、チームでしっかりタッグを組みながら作り上げていきました。そして次のステージにいざ上がるとなると、もうゼロではないわけで、自分たちが築き上げてきたもの自体が巨大なハードルと山になってしまうんですよね。それを越えない限り観客には喜んでもらえないので、俳優然りそれぞれのパートが、何ができるのかを突き詰めていく。スケール感や舞台裏など、良くも悪くも手の内がバレてしまっているので、普通に描いても驚くようなエンターテインメントにならないんです。そして難しいのが、ただ違うことをやればいいのではなく、今あるものをキープしながら自分たちの中身をむしろえぐっていく、それで高みを目指すしかないということ。より難易度は上がるんだなと改めて実感しました。
そのハードルを、実際にはどうクリアしていったのでしょうか?
やっぱり自分も人に頼ることを意識していましたし、前と同じことは通用しない、それはみんなが分かっていたのでチームワークも高まっていました。ただ、そもそも潜水艦の中で撮れるカットは限られているので、カメラマンさんも一生懸命に前とは違うアングルを探りながら、ものすごく遠いところから寄ってきたり。そういうワンカット、ワンカットを大切に積み重ねて、ハードルを超えていく。高みを目指す、素晴らしいプロのチームが手掛けたので、自信を持って堂々と届けられる作品になっています。
海江田四郎という人物を改めて演じる上で、何か新たに意識されたことはありますか?
海江田のキャラクターの描き方が、原作の漫画とどう違うかは、前作を見た方にとっては明瞭で。本作ではその前作を超えながらも、前作と違うキャラクターを演じるわけにいかないので、すごく難しかったです。キャラクターの中に内在してるサムシングを、だんだん具体化していくという作業になるのですが、でも一歩間違って“人間”にし過ぎてしまうと、何かが面白くない。ストーリーがその先も続いていくということもあって、全部見せるという手も通用しないですし。その辺りの際どい部分を綱渡りしながらも、観客にはサプライズや楽しみを届けたくて。ただ先ほどもお伝えしたように、たくさんの役者の方々とみんなで作っているので、周りのリアクションを信じて演じていました。他の乗組員の慌ただしさだったりが前作とは違う緊迫感を生み出していたり、自分の役にフォーカスし続けられたのも、周りの演出があってこそ。規模もスケールも大きいですし、適材適所に委ねることも大事だなと。例えば、CGなどもそうです。
CGで描く壮大な世界観を想像しながら演じるのは、とても大変そうに感じます……!
実は昔からその感覚が全くなくて。イメージしづらくて苦手に感じる方も周りにはいますが、作品に携わっている間、僕はほぼ妄想の中にいるので、そもそも現実みがないんです。本作に限って言えば、チームの技術を信じられているからこそ、自分は自分なりの海江田でそこにいるだけでいい、というような感覚もありました。観ていただけたら分かると思うのですが、映像一つひとつを丁寧に撮っていて、完璧な世界観を描いているのでそこにも注目していただきたいです。
特に過酷だったシーンなどはございますか?
撮影自体はほとんど立っているだけなので、そこまで自分は大変という立場ではないのですが、監督は北極の世界を描く一方で、総選挙も描きながら、アメリカの方々を演出して、我々の潜水艦の中にも閉じこもらなくてはいけない。他のスタッフの方々も本当に過酷な中で制作に携わっていて。僕は本作では、本当に2歩ぐらいしか歩いていないので、申し訳ない気持ちです(笑)。でも自分が息苦しくならないように、監督含めカメラマンさんも照明さんも気遣ってくれましたし工夫してくださったので、すごく感謝しています。
シリーズ作品を通してクラシック音楽が一つの特徴となっていますが、大沢さんご自身はどういった音楽を聴かれることが多いですか?
亡くなった父が、クラシックとジャズを好んでいて。家で流れていることも多かったので、自分も自然と好きになっていました。今も撮影に入る時はクラシックしか聞かないんです。それもあってか、本シリーズでのクラシック音楽は気に掛かったポイントでもあります。ある種の優雅さと深刻さ、戦いといったものをクラシック音楽で表現するなんて、ものすごい原作だなとも思いましたし、映像化した際にも映えるだろうなというのは一貫して感じていました。
政軍分離という思想や、海江田の行動が政治に大きく影響を与えるという構図、また国際情勢や核問題、ひいては世界平和など重厚なテーマを扱う本作に関して、どう感じられていらっしゃいますか? また、より激しい戦いも全面に描かれている印象があり、作品全体に込められたメッセージをお伺いしたいです。
今、言葉にすると白々しく感じるかもしれませんが、作品に携わり始めた頃は、海江田の奥深い部分に、ある種「目覚めよ、日本」ないし「目覚めよ、世界」というような想いがあると感じていて。そこに対して何か警笛を鳴らすではないですが、エンターテインメントとして、この作品が何かのきっかけになればいいなと思っていました。その結果がいいか悪いかは別として、残念ながら映画の世界のようなことが、現実世界でも起きてしまっていて。
現実と重なる部分が多分にありますよね。
当時はまさか何年後かに、街で日米安保について人々が話したりする日が来るとは思ってもいませんでした。あくまで「何か小難しいことを言っていると思われるかな」と考えながらこのプロジェクトを進めていましたが、世界が決して良い方向に向かっているわけではない現状を目の当たりにし、思うこともたくさんあります。本作のように、厳しいフェーズに入っていく。そこにはある種の戦いが避けられないし、すでに戦いは始まっている。そういう中でもみんなが目覚めて、未来に良い変化をもたらす、行動を起こすようなことを主人公は多分願っていたと思うので、今はすごく複雑な気持ちです。ただ、こういうメッセージを受け取ってもらいたい、ということを考えて作るのは恩着せがましいというか、鬱陶しいじゃないですか(笑)。エンターテインメントとして、潜水艦のアクションと人間ドラマを良い形で描けたら、みんな楽しく見られるかなと。僕らは政治家ではないので、とにかく作品を楽しんでほしいし、何か心に響くことをやりたくて。どこかで世界のことを考えるきっかけに、それぐらいでいいのかなと思っています。監督もさまざまな強い思いを抱いていましたし、やっぱり前作を超えないといけないという意志のもと、細部に至るまでこだわり尽くして、完成にもギリギリまで時間をかけました。みんなが納得のいくところに行き着くまで戦ったので、あとは自信を持って送り出すのみ。多くの方にご覧いただけたら嬉しいです。
最後に、今後の展望を教えてください。
今後の展望はこの作品にかかっています(笑)。絶対的に約束されたポジションというものはないですし、何か一つ失敗したら将来は大きく変わるものなので。ただ本作に関してはあらゆる面でスケールも大きくて失敗は許されないですし、でもそういうほうが我々も命や魂、俳優生命すらかける意味があるので。まずは本作を無事送り出した後に、その次のことを考えていきたいです。プライベートでは、海外旅行に行きたいです。年初に、今年は10か国ぐらい訪れることを目標に掲げたのですが、まだ1か国しか行けていなくて、後半どう考えても厳しいぞと(笑)。でもそれが自分の楽しみでもあるので、この先ももっと色々なものを見て、感じていきたいなと思っています。
PROFILE
俳優 大沢たかお TAKAO OSAWA
1968年3月11日生まれ。東京都出身。1987年よりモデルとして活躍、1994年にテレビドラマ『君といた夏』で俳優デビュー。以後、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)やドラマ『JIN -仁-』(2009・2011)など数々の話題作に出演し、存在感を示す。主な映画出演作に、『解夏』(2004)、『地下鉄(メトロ)に乗って』(2006)、『藁の楯 わらのたて』(2013)、『風に立つライオン』(2015)、『AI崩壊』(2020年)など。人気シリーズとなった『キングダム 大将軍の帰還』(2024)の王騎役で、第48回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞に輝く。主演・プロデュースを務めた映画 『沈黙の艦隊』(2023)は大好評を博し、劇場版に未公開シーンを加えた完全版としてドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1 〜東京湾大海戦〜』が、Prime Videoにて世界独占配信。続編となる『沈黙の艦隊 北極海大海戦』が現在公開中。
